タイから日本へ(その二)

 ぼくの仕事という観点から考えると、日本に戻るということは、すなわち、一からやり直しということを意味した。つまり、タイでは4年という歳月をかけて7社の会社から仕事の依頼を受けるという環境を作りあげたのだが、日本に戻ればその環境をまた最初から作り直さなければならなくなるということである。というのも、会社とのやりとりはネットが中心なので日本に戻ってもこれまでどおり仕事を引き受けることは物理的には不可能ではないのだが、タイと日本では物価に差があるので、タイで得ていた金額で日本で生活していくのは経済的に無理がある。そういう意味では、日本に戻れば、4年間かけてコツコツと築き上げてきたものがいったんすべて白紙になり、それは正直もったいないという思いがあった。

 それでも日本に戻ろうと思ったのにはやはりそれなりの理由があるのだが、その多くはどちらかと言うと消極的な理由である。

 ひとつ目の理由は、タイでの居住環境に大きな問題があったこと。これは一部の友人には事あるごとに話をしたことがあるのだが、ぼくにとっては極めて重要な問題であった。詳述は避けるが、簡単に言うと騒音問題に悩まされていたのである。しかもぼくは翻訳の仕事を自宅で行っていたので、この騒音問題は生活していく上においても仕事をしていく上においても相当に大きな頭痛の種であった。しかも、その騒音問題自体を解決するのがほぼ不可能な状況にあったため、別の場所に引っ越しするか、そうでなけばいったん日本に戻るというのが当時のぼくたちの選択肢であった。

 ふたつ目の理由は、タイ人である妻の日本の滞在ビザを取得できる目処が「ついてしまった」ということ。日本人と結婚したタイ人が日本で暮らそうと思う場合、日本人と結婚したからと言って自動的に日本で暮らせるようになるわけではない。日本に滞在するためにはビザというものが必要となる。そして、そのビザを取得するには、日本に滞在する資格を有する人物であることを証明する書類が必要となる。この書類を「在留資格認定証明書」という。そして、この証明書を取得するには、日本の入国管理局で証明書の交付申請をしなければならないのだが、実はたまたまぼくが2005年の終わりに通訳の仕事で日本に一時帰国することになったので、妻もぼくと一緒に日本に行き(この時は短期の滞在なので観光ビザを取得した)、その際に入国管理局で上述の証明書の交付申請をしておいた。そして、ぼくの日本での仕事が終わり、妻とともにタイに戻って2ヶ月ほどが経った頃に、日本の親からこの証明書が無事に取れたとの連絡があった(実はその前に入国管理局から追加書類の要請があり、それをタイから日本に送っている)。この証明書が交付されたのが2月の半ばで、この証明書の有効期限は交付日から90日間であった。つまり、日本で暮らそうと思ったら、5月の半ば頃までには日本に戻らなければならないことになる。それでもこの頃はまだ日本に戻るかどうかについて真剣に考えていなかった。ただ、日本の入国管理局でこの証明書の交付申請をした時は、正直この証明書が取得できるとは思っていなかったので、いざ取れたと分かった時には逆に、ああほんとに取れちゃったどうしよう、と思ったものである。




 営業活動の一環として翻訳ブログ人気ランキングに参加中

 営業活動の一環としてタイ語ブログランキングに参加中

 営業活動の一環としてタイ情報ブログランキングに参加中