新聞を読む(その3)

 では、大見出しを見ていこう。

 まず分かりやすいところから見ていくと、一番上の行の後半の「รัดคอฆ่า (ラット・コー・カー)」は「รัดคอ (ラット・コー)」が「首を絞める」、「ฆ่า (カー)」が「殺す」といった意味なので、「รัดคอฆ่า」で「首を絞めて殺す」、つまり「絞殺」するといった意味になる。

 次に一番下の行を見てみる。まず前半の「ซดยาพิษ(ソット・ヤー・ピット)」だが、「ซด」というのはスープやお茶、お酒などを「啜る(すする)」といった意味があり、大ざっぱに言うと「飲む」ということなのだが、一気にゴクッと飲むのではなく、ちびりちびりと少しずつ飲むといった意味あいで使われる。また、「ยาพิษ (ヤー・ピット)」というのは「毒薬」という意味なので、日本語らしく言うと「毒を飲む」といったところである。

 それから一番下の行の後半の「ตายตาม (ターイ・ターム)」であるが、「ตาย (ターイ)」は「死ぬ」、「ตาม (ターム)」は「後を追う」といった意味があるので、あわせて「後を追って死ぬ」となるのだが、ここでは「毒を飲む」とあり、つまり自分で毒を飲んでいるわけなので、「後追い自殺」すると言ってもよいかと思う。

 ここまでは比較的分かりやすい部分で、残りの部分がやや分かりにくいかもしれない。

 まず、一番上の行の前半の「ผจก. หึง (ポーチョーコー・フン)」を見てみよう。最初の「ผจก. (ポーチョーコー)」は、ある程度タイ語を読み慣れている人なら難なく分かる言葉であるが、知らない人には分からない。というのもこれは略語なのである。元の言葉は「ผู้จัดการ (プーチャットカーン)」で、「ผู้ (プー)」の「ผ(ポー)」と「จัด (チャット)」の「จ(チョー)」、「การ (カーン)」の「ก(コー)」をそれぞれとって「ผจก.」という。なお、略語の場合はこのように最後に必ず「.」をつけるので、逆に言えば、点が付いていれば略語だと分かる。

 説明が長くなったが、この「ผจก. (ผู้จัดการ)」というのは、ある組織を仕切る人のことで、例えば、日本語で言うと課長や部長などもこの「ผู้จัดการ」にあたる。一般的には「マネージャー」と呼ばれる人のことである。次に「หึง (フン)」だが、これは「嫉妬する」といった意味で、つまり「マネージャーが嫉妬した」といった意味になる。

 ここまでの部分を日本語でそれらしく書いてみると例えばこのようになる。

  嫉妬したマネージャーが絞殺

  毒を飲んで後追い自殺

 さて、後は真ん中の行の「บัญชีสาว (バンチー・サーオ)」であるが、新聞に慣れていないとこれはちょっと難しいかもしれない。慣れている人にはそうでもないのだが。まず「บัญชี (バンチー)」だが、ここでは「会計」という意味である。次に「สาว (サーオ)」だが、これは若い女性を表す言葉である。ここで日本語の語順で考えると、「会計の若い女性」となり何の問題もないのだが、実際にはタイ語というのは修飾語が被修飾語の後に来る言語なので、つまり分かりやすく言うと、日本語だと「大きい家」というように修飾語の「大きい」が被修飾語の「家」の前に来るのに対して、タイ語の場合は「家大きい」のように修飾語が後に来るので、その文法の規則に照らして考えると「บัญชีสาว (バンチー・サーオ)」というのは本来は「若い女性の会計」とならなければおかしいのであり、そういうわけで、タイ語の文法知識のある人だとこの「บัญชีสาว (バンチー・サーオ)」を見た時に逆に「?」となってしまうかもしれない。

 では、これはどういうことなのかというと、ここが新聞の大見出しの特徴なのだが、大見出しは字数に限りがあるため、長々と書くことができないので必然的に省略した短い言い方になる。先ほどの「ผจก.」などもその一例である。この「บัญชีสาว (バンチー・サーオ)」も例外ではなく、実を言うとこれはもともとは「พนักงานบัญชีสาว (パナックガーン・バンチー・サーオ)」という意味なのである。ちなみに「พนักงาน (パナックガーン)」とは一言でいうと「従業員」という意味で、先ほど書いたようにタイ語は修飾する言葉が後に来るので、ここでは「会計の従業員」、つまり「会計担当」の従業員と言った意味になる。そしてさらに「สาว (サーオ)」という言葉が後に来ているので、あわせると「(若い) 女性の会計担当」となり、日本語らしく言えば「会計担当の女性」となる。

 ということで、これを先ほどの日本語の文にそのまま当てはめると次のようになる。

  嫉妬したマネージャーが絞殺
  会計担当の女性
  毒を飲んで後追い自殺

 ただし、タイ語の場合は英語のSVOの文型と同じで、「マネージャーが会計担当の女性を絞殺した」の「会計担当の女性」部分(つまり「O」の部分)が動詞の後に来るので、このままの語順では日本語としてはつながらない。あえて日本語にするなら次のようにしてもよいかもしれない。

  嫉妬したマネージャー
  会計の女性を絞殺
  毒を飲んで後追い自殺

 そんなわけで、これは新聞の見出しとしてはわりと分かりやすかったので、例としてはあまり適当ではなかったかもしれない。