タイ語翻訳者が考える「政治とカネ」の問題

 しばらく聞いていなかったNHKラジオ日本のタイ語放送を聞いていて、ふと耳に引っかかる表現があった。


 “ข่าวอื้อฉาวเกี่ยวกับการเมืองและเงิน ”(2月22日分の4分33〜35秒)


 そう。しばらく前から新聞やテレビで話題になっているいわゆる「政治とカネ」の不祥事についてのニュースのことである。この表現が耳に引っかかったのは、いわば翻訳者の習性であり、表現として何となく不自然なものを感じたためである。
 言うまでもなく、この“การเมืองและเงิน”というのは「政治とカネ」という日本語を翻訳したものであり、一見すると何の問題もないように思われる。しかし、私はこのタイ語表現は不適切であると思う。

 まず、日本語の「政治とカネ」という表現だが、これは「(今日の朝食は)納豆と味噌汁」といったような純粋な並列の関係ではなく、「政治」という大きな話題があり、その中で「カネ」にまつわる(からむ)問題と捉えるのが自然なのではないかと思う。つまり、「政治andカネ」ではなく、「政治(問題)aboutカネ」のような関係である。逆に、もしこれが単純な並列だとすると、例えば、「政治とカネの問題」という表現は、「政治の問題およびカネの問題」という解釈になるが、ここでいう「政治とカネ」というのはそういう意味ではなく、「政治」というものと「カネ」というものがからみ合っているという意味で「と」とう言葉を使っており、しかも、この問題は政治という話題においてカネがからんだ問題ということになるので、政治のほうが主体と解釈するのが自然である。そう考えると、“การเมืองและเงิน”というタイ語は言葉の表層を訳しただけの表現であり、肝心の意味のほうが「翻訳」できていないということになる。逆に、「政治とカネ」のタイ語訳を考えるとすると、“เรื่องทางการเมืองที่เกี่ยวข้องกับเงิน”といったあたりになるのではないだろうか。

 いずれにしても、「政治とカネ」のような表現は一見(あるいは一聴)すると、何ということのない日本語に思えるが、いざそれを別の言語に訳そうと思うと、「ハテ?この日本語は一体どういう意味なのかな?」とその表現の難しさに気がつくのである。