コロナ禍で浮かび上がった国境の実態

「国境」と言っても島国の日本に住んでいると今ひとつピンと来ませんが、隣国と陸続きになっている国に行き、実際に自分で国境を越えてみると、この国境が身近なものに感じられます。そして、複数の国と陸続きになっているタイでは今この国境が話題になっています。

 

11月の終わりから12月の初めにかけて、タイでは、コロナウイルスのタイ人感染者が複数見つかったというニュースが話題になりました。コロナウイルスに感染していたのは外国からタイに帰国したタイ人です。

 

これまでも外国から帰国したタイ人感染者のニュースはしょっちゅう耳にしていましたが、それらのニュースがタイで大きな話題になることはありませんでした。というのも、タイは非常に厳格なコロナウイルス感染対策をしており、タイに入国する人はタイ人であれ外国人であれ14日間の強制隔離が義務付けられているため、タイに帰国したタイ人もみな14日間の強制隔離の対象となっているためです。つまり、基本的には、外国からタイに入国する人がコロナウイルスに感染していたとしても、その人から感染が拡大する可能性は極めて低いということであり、実際、タイは人口が7,000万人近くいますが、現時点でのコロナウイルスの感染者は累計で4,200人弱で、死者はわずかに60人です。

 

ところが上述のニュースで話題になった外国から帰国したタイ人感染者は強制隔離されることなく、後に感染者であることが発覚しました。しかも、これらのタイ人感染者がタイの複数の県で見つかったため、感染拡大の懸念からタイでは一気に話題となりました。これらのタイ人はどうして強制隔離を逃れることができたのかと言えば、もうお気づきの方もいるでしょうがタイに「密入国」したためです。では密入国とはどういうことかと言うと、要するに国境の検問所を通らずに入国したということです。

 

ここでタイの国境について説明しておきます。以下のページの地図を見ると分かるように、タイは、ミャンマーラオスカンボジア、マレーシアの4か国と国境を接しており、中でも最も国境が長いのがミャンマーで、その距離は2,401kmに及びます。そして、今回のニュースで話題になった密入国は全てミャンマーからの入国です。(なお、タイとは違いミャンマーは現在コロナウイルスの感染が急速に拡大しており、ミャンマーと国境を接するタイはこのことに神経を尖らせています)

 

www.petikemas.co.th

 

密入国したこれらのタイ人がコロナウイルスに感染し、しかもこれらのタイ人が国内の複数の県で見つかったことにより、当然ながらタイとミャンマーの国境の警備が強化されることになりました。例えば、以下のページように国境地帯に有刺鉄線を張るといったこともニュースで話題になりました。

 

www.dailynews.co.th

(リンクを貼り間違えていたので修正しました) 

 

 

しかしながら、こうしたニュースでの話題は、逆に国境の警備の難しさ、というよりも限界を浮かび上がらせることになりました。

 

私が毎日聞いているニュースでも言っていましたが、上述のように有刺鉄線を張るといっても国境全てに有刺鉄線を張ることなどできませんし、当然ながら全ての国境を兵士が見張ることも不可能です。というのも、上述のようにタイとミャンマーの国境は2,401kmもあるからです。これがどのくらいの距離かを実感しやすいように、北海道の宗谷岬から鹿児島県の佐多岬までの距離をGoogleで調べてみたところ、もっとも短いルートで2,587kmでした(以下の地図がそのルート)。宗谷岬から札幌市までは約351kmですから、宗谷岬と札幌市の中間点から佐多岬ぐらいまでの距離がタイとミャンマーの国境と大体同じぐらいの距離になります。

 

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宗谷岬から佐多岬までの距離

これだけの距離の国境を全て警備するなどどう考えても無理な話です。しかも、これもニュースで言っていたのですが、密入国を案内する仲介業者がおり、そうした仲介業者は国境を警備する兵士が交代する時間も把握しており、警備の兵士の交代時間をねらって密入国するそうです。(ということは、おそらくこうした仲介業者と当局者がどこかでつながっている可能性が高いのですが)

 

そこでふと思ったことがあります。今回は密入国した人がコロナウイルスに感染していたということで「たまたま」大きな話題となりましたが、こうした密入国自体はおそらくこれまでも日常的に行われてきたであろうということです。

 

一口に国境と言っても様々な国境があります。私はタイと周辺国の国境をいくつか超えたことがありますが、例えば、その一つであるタイとラオスの間にまたがるメコン川の国境などは、検問所があるところで1km以上約640m(後から誤りに気付き訂正しました)の長さがあり、泳いで渡ることはもちろん、舟で密入国する(つまり、見つからずに入国する)ことも容易ではないはずです。また、山岳地帯の国境も地理的に密入国するのは難しいと思います。

 

その一方で、タイの北部にあるチエンラーイ県メーサーイ郡とミャンマーのタチレクとの国境は、これも実際に超えたことがあるのですが、幅が10mもないぐらいの小さな川が両国の国境になっており、今回の密入国もこのエリアで起きています。

 

また、私はタイに住んでいた時にビザの更新のためにタイとカンボジアの国境を何度も越えたことがあるのですが、その国境は川もない完全な陸続きの国境で、私がタイからカンボジアの国境検問所を超えるすぐその横で、地元民が国境ゲートではないところを当たり前のように歩いて国境を越えていくのを目の当たりにしたことがあります。

 

おそらくですが(根拠はありません)、タイとミャンマーの国境にしても、タイとカンボジアの国境にしても、地理的に国境を超えるのが容易な箇所においては、ちょっと向こう側の村に行くぐらいの感覚で国境を超えているということはあるような気がします。ただ、それが今回のようなコロナウイルスの感染者の密入国や麻薬の密輸入といった事件でない限り、大きな話題にならないだけだと思います。

 

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