初めてのアテンド通訳(二日目)

 二日目は、午前中が名古屋にある産業技術記念館の見学、午後が駅伝大会の会場となる競技場の下見とジャスコでの買い物である。

 午前中の産業技術記念館というのはウェブサイトを見ていただければ分かると思うが、トヨタグループ13社が設立した施設で、パンフレットには「トヨタグループ発祥の地である旧豊田紡織本社工場跡に残されていた建物を貴重な産業遺産として生かしながら設立したもの」とある。

 そして、今回の駅伝大会に来ているタイ人たちが勤める会社というのが実は上の13社のひとつなのである。

 今回来日したタイのグループの中には引率者の日本人が1人いて、産業技術記念館に向かうバスの中でこの方がこの記念館がどういった場所に建てられていて、どういったいきさつで設立されたのかを説明した。説明はもちろん日本語だったので通訳であるぼくがそれを訳したのだが、自分たちが働いている会社のルーツを知らせることは、ひとりひとりに自分はこの会社の社員なのだという自覚を持たせるには必要なことだと思うし、会社という組織に対する関心とか愛着といった気持ちを抱かせる上でも重要なことだと思う。特にタイ人にとっては日系企業外資系の会社であり、なおさらこういった啓蒙が必要だと思うし、こういった精神的な部分の教育というのも、日系企業が現地の人たちと一緒に会社という組織を運営していく上では不可欠なのではないかと感じた。そういうことを考えていると、ここはぜひともしっかり通訳しなくてはという気持ちになってきた。

 産業技術記念館ではいきなり見学ではなく、まず、大学の小講義室のようなホールで職員から施設の説明を受けた。当然この時はぼくが説明した。ひとつこの施設の通訳で助かるのはこの施設のパンフレットにはタイ語のパンフレットもあることである。

 職員の説明の後はビデオを見たのだが、これが少し難しかった。というのは、通訳はマイクを使っておこなったので、ビデオの音声が流れている時にしゃべると自分のマイクの声でビデオの声が聞こえなくなってしまうのだ。そこで、ビデオの音声が途切れるタイミングにあわせて通訳していった。ちなみにこのビデオは英語版はもちろん、中国版もあるので、中国チームの通訳はこのビデオは訳さなくていいのである。

 職員の説明を聞きビデオを見た後はいよいよ施設の見学である。ところがこの時点ですでに時間が1時間ちょっとしかない。この記念館は大きく分けると3つのコーナーに分かれていて、とてもじゃないが1時間ちょっとで全て見きれるとは思えない。ところが、やはりと言おうと当然ながらと言おうか、エントランスホールにある、この記念館のシンボルとも言える環状織機の前で撮影会が始まった。しかしこれは日本人でもやはり写真を撮りたくなるだろう。

 ここからはそれぞれが思い思いのペースで見学していくのでみんなが揃って見学というわけではない。そこでぼくはその時々に近くにいるタイ人と一緒に歩き、何か聞かれた時に説明するようにした。

 そういえばテレビのニュースなどで時々見かけるトランペットを吹くロボットがこの記念館にはあり、ちょうどこの時もタイミングよくロボットの演奏を見ることができた。余談だが、ロボットの演奏が始まる前に中国チームがあっという間にロボットの前に陣取り、対照的にタイ人が後ろの方で遠慮がちに立っている様子を見て、両国民の性格の違いがよく出ているなあと思った。この時係のおねえさんが前にいる人は少し後ろに下がってくださいというようなことを「日本語」で言っていたのだが、当然効果はなく、ぼくはすぐさま中国語の通訳の方に「少し後ろに下がるように言って下さい」と伝え、通訳の方がそれを中国チームに言うと、さすがに後ろに下がってくれた。

 施設の見学は予想通り時間が足りず、最後はインフォメーションのところで中国語とタイ語でそれぞれ「時間になりましたので元の場所に戻ってきて下さい」と場内放送を入れなければならなかった。タイ語のアナウンスをしたのはもちろんぼくである。しかしとっさにあらたまった言い方をするのは難しい。「ขอประกาศนะครับ(コー・プラカート・ナ・クラップ)」で始めたのだがこれで本当によかったのかどうか。このあたりの言い回しに関してはぼくは明らかに勉強不足である。

 記念館からバスで15分ほどのところにある中華のビュッフェレストランで昼食を取った後、豊田にある駅伝会場の競技場に向かった。当初の予定では会場のコースを確認するとともに練習もするつもりだったのだが、どうやらそれは難しい状況であった。というのも、記念館を出た時にはすでに雨が降り始めていたのである。

 今回の仕事が始まる1週間ほど前から毎日週間天気予報をチェックしていたのだが、予報では駅伝大会の行われる23日は雨であった。ところが結局その前日の22日まで雨になってしまい、会場では雨が降る中、傘をさしながら1.7?の周回コースをみんなで歩いた。コースを歩きながらタイ人と話をして今回の駅伝大会に来る前の話を聞いた。実は今回のタイチームはタイにある6つの工場から集まっていて、それぞれの工場から3名代表を出している。この時の話によるとそれぞれの工場で代表を決めるための予選が行なわれたようで彼の工場でも3人の代表に対して20人を越える従業員が予選に参加したそうである。言い方は悪いがタダで日本に旅行に行けるわけだからぼくが彼らの立場ならもちろん予選に参加しただろう。

 ちなみに駅伝と言えば、日本では学校行事でも行われるので誰でも知っているのだが、タイではマラソンはあっても駅伝というのはないそうで、したがってリレーの「バトン」は知っていても「たすき」の存在は知らないのである。そこで帰りのバスの中で荷ひもを使ってたすきの使い方を実演した。

 会場の下見の次は最後にジャスコで買い物である。しかも会場の下見が予定より早く終わったこともあり、買い物の時間は3時間以上ある。そんなに時間があってあまり買い物をしない人はどうするのかと思っていたのだが、結果的にはそれはぼくの杞憂に終わったようである。初日の電気屋と違ってジャスコには何でもあるし、この時行ったジャスコというのがとにかく広かったので意外と時間を持て余すこともなかったようである。例えば、初日に高島屋に行った女性陣などは店に入るなりツバキとかいうシャンプーのセットを大量に購入していた。なんでも複数の同僚や友人に頼まれているらしい。というか今回の駅伝大会に会社の代表で来ている彼女たちはある意味買い物も代表で来ているようなものなのである。

 ちなみに何も買い物などする予定のないぼくは添乗員さんと一緒にドトールコーヒーでコーヒーを飲みながらおしゃべりをしていたので、この時間は楽をさせてもらった。

 そして、集合の時間が近づいてきたので集合場所に戻ってみると、先ほどの女性陣は大量の袋をかかえてベンチに座っていた。買い物で疲れたので休んでいたそうである。その他の人たちも初日の電気屋とは違ってけっこういろいろ買い物をしたようである。

 そしてホテルに戻ってホテルで夕食を取った。ただし、タイチームと中国チームで60名ほどになるので、食事は3グループに分けて時間差攻撃で取ることになった。なお、駅伝の前日ということで夜はアルコール類は取らないよう伝えておいた(そのように伝えてくれてと頼まれたので)。でもそうみんなに伝えたぼくは食事の後部屋でこっそり(でもないけど)ビールを1本だけ飲んだ。



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