異文化交流

 突然だがちょっと話題を変えて。

 昨日、ある会社の吹奏楽団の定期演奏会に行ってきた。一緒に行ったのはタイ人の妻と妻の友人である中国人男性のF君で、このF君というのは妻が毎週土曜日に行っている日本語教室のクラスメイトである。そして、妻とF君に日本語を教えてくれている先生がこの会社の吹奏楽団員で、要はその先生に招待されたというわけである。

 演奏会へは車で行き、その道中でF君と話をする中で面白いことを聞いた。ちなみに彼との会話はほとんど日本語である。

 先ほど書いたようにF君は中国人で、日本語だけではなく英語やドイツ語も勉強しており、一方のぼくは言語に関わる仕事をしているので、自然と言語に関する話題が中心となっていった。

 その中で国名の話になり、彼は「イギリス」とか「ドイツ」といった国の日本語は知っていたのだが、何かの話で「グリース」と彼が言うので、ぼくは「ああそれは日本語だとギリシャだね」と彼に教えた。ちなみにぼくは3年ほど前まではこの「グリース (Greece) 」という名称は知らなかったのだが、2004年にアテネでオリンピックが開かれた時にタイのテレビでしきりにグリース、グリースというのでこれが日本語でいうギリシャのことだと知った。ちなみに日本語で言う「アテネ (Athens)」もタイ語では「エーテーン (เอเธนส์) 」と言い、これもこの時初めて知った。この「Greece」というのはギリシャの英語の通称で(正式には「Hellenic Republic」というらしい)、タイ語にしても中国語にしてもおそらく英語の発音がベースになっているものと思われる。それに対して日本語の「ギリシャ」はこのページによると英語ではなく宣教師のポルトガル語がもとになっているらしく、そのあたりに日本とタイあるいは日本と中国との文化の違いを見出すことができる。

 もうひとつ面白かったのが「アメリカ」の漢字表記のことである。日本語ではアメリカのことを「米国」と漢字表記するが、中国では「美国」と表記する。このことはぼくも知っていた。ところがF君が言うには、中国でも最近の若者の中にはアメリカのことを「米国」と書く人もいて、それは日本語の影響なのだという。これには少々驚いた。やはりそれだけ日本の文化も影響力があるということなのだろう。

 そして、(実は途中で道に迷ったのだが)なんとか無事に会場に到着し、席に着いた後、演奏が始まるのを待っていると、いきなりF君が先生を応援しようと言って、演奏会のパンプレットに挟まれていたチラシの裏に先生の苗字と「先生」という文字を書き始めた。ちなみに、ぼくは「がんばれ」という言葉を書かされた。そして、吹奏楽団が入場した時にF君が先生の苗字を書いた紙を、妻が「先生」と書いた紙を、そしてぼくが「がんばれ」と書いた紙をかかげて先生を応援するというのだ(舞台から見ると左からF君、妻、ぼくの順に座っていた)。そんな、コンサートじゃないんだから勘弁してくれと思いながら、仕方なく「がんばれ」と書いた紙を頭の上にかかげつつ、後ろの席の人のことがどうしても気になってしまったぼくはやっぱり日本人だなと思う。これは何人がどうのこうのということではなく、国によってやっぱり感覚が違うのだなあということが言いたいのである。

 実はこの演奏会にはゲストが招かれていて、途中からはそのゲストが演奏に加わった。ちなみにこのゲストというのはサックス奏者として有名なあの「MALTA」で、途中からは彼と吹奏楽団のセッションという形で、曲もどちらかというとジャズ系の盛り上がる曲になった。

 そして、そのような雰囲気の曲になると今度はタイ人の妻の手つきがにわかにタイ舞踊の形になってきた。そして彼女が言うには、「こういう時なんで日本人は座ったままなのか。もし(タイ人の)友だちが隣に座っていたら絶対立ち上がって踊る」そうである。

 これはタイ人とある程度の付き合いがあり、タイのことをある程度知っている人なら非常によく分かる「タイ人気質」だと思うが、ぼくは妻が踊ったりする場面を見たことがほとんどなかったのでこの時あらためて「ああ、やっぱりタイ人はそうなのか」と思ったのである。

 そんなわけでぼく的にはいろいろと有意義な異文化交流ができた一日であった。