かたいはかたいだが

 毎週火曜日に行っている通訳先は自動車関係製造業の会社で、そこにタイから研修に来ているタイ人の通訳をするというのがぼくの役割である。ちなみに、ぼくは日本に戻ってから何回か通訳の仕事をやっているが、これまでの通訳もすべて研修のタイ人の通訳である。それも自動車関連会社ばかり。

 さて、7日の通訳では、タイ人が旋盤という機械を使って実習をしていたのだが、この実習の時に一度緩めた機械のネジを締める場面があった。そこで、先生役の日本人が「じゃあ(ネジを)かたく締めて」と言ったのだが、ここでぼくは次のように通訳してしまった。

 「ขันให้แข็ง (khan hai kheng) 」

 「ขัน (khan) 」というのは「(ネジなどを)回して締める」といった意味で、「แข็ง (kheng) 」というのは昨日説明したように「かたい」といった意味があるので、ぼくは反射的にこのように通訳したのである。

 するとそれを聞いたタイ人が確認するように「ขันให้แน่น (khan hai nen) 」と言ったので、ぼくは「あ、しまった間違えた」と気が付いたわけである。

 というのは、「แน่น (nen) 」というのはここでは「きつく」といった程度の意味になるのだが、日本語ではこの「きつく」の代わりに「かたく」と言ってもおかしくない。ところがタイ語の場合はそうはいかないのである。

 しかしぼくは「かたい」という言葉を聞いて反射的に「แข็ง (kheng) 」と言ってしまったわけである。実はこの「แข็ง (kheng) 」でも言いたいことは伝わるのだが、言い方としてはやはり適当ではない。

 ここでポイントとなるのは、日本語の「かたい」という言葉が表す意味の範囲とタイ語の「แข็ง (kheng) 」という言葉が表す意味の範囲が異なるということであり、イメージとしては、それぞれの言葉が表す意味の範囲を円だと考えると、2つの円は一部重なっている部分もあるが、完全に一致してはおらず、数学の公約数を表す円のようになっているわけである。

 これは通訳だけでなく外国語を話す際にも注意しなければならない点である。というのは、外国語を話す際に日本語で「かたく」と考えてから外国語で表現しようとするとこのようなミスを犯しやすい。

 逆に、「ネジを固く締める」という意味のことを、今回のような通訳ではなく、いきなりタイ語で相手に言っていたとしたらぼくはこのような用法の間違いは犯さなかったと思う。それは表面的な言葉の置き換えではなく、相手に自分の言わんとする意味を伝えようとするからである。

 例えば、普段ぼくは妻とタイ語だけで話をしている時は特に困難を感じることはないのだが、テレビで何かの番組を見ていて、その時その番組で言った言葉を説明するとなると途端に難しく感じるのと同じで、これもやはり言葉の表面的な意味だけをとらえて訳そうとするとうまくいかない。その言葉を使って伝えようとしている内容をとらえ、それをすぐにタイ語という別の言語で表現する。このようなことは訓練なしにできることではない。

 そう考えるとやはり通訳というのは特殊な技術を要するものだということがよく分かる。



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