モジュール4(その2)

 これまでの3ヶ月ではあり得なかった状況。それは、「先生の言っていることが時より分からなくなった」ことである。

 もちろんそれまでの3ヶ月でも知らない単語はいくつもあったわけだが、先生の言っていることが分からなくなるということはなかった。

 では、なぜモジュール4になって突然そのような状況になったのか。モジュール4になって授業の難易度が急に上がったのかと言えばそうではない。ぼくが落ちこぼれで授業についていけていなかったというわけでもないと思う。

 やはりこれは先生の経験が足りなかったからだとぼくは思っている。というのは、単に教え方がうまくないということではなく(モジュール1の先生はベテランではあったが教え方は決してうまくはなかった)、他にもっと大きな理由があるのだ。つまり、この先生は生徒がまだ勉強していない言葉を使うのである。もちろんその日に新しく勉強する単語はいい。それはこれから勉強するのだから知らなくて当然である。ただし、この先生はそれ以外の説明などの部分でもぼくたちが知らない単語を連発するのである。これは経験のなさがなせる業だとぼくは思う。

 逆に経験のある先生であれば生徒が知らないような言葉をむやみやたらと使わないはずである。だからこそ、ぼくたち生徒はわずか2、3ヶ月でも学校では先生とタイ語でそれなりのコミュニケーションが取れるわけであるが、先生自体が生徒の(単語)レベルを把握していないと、生徒の知らない言葉を使ってしまうのである。

 結局このモジュールでは、先生の教え方に不満を感じ、やや強い口調で先生に文句を言ってしまった。この時、タイ語のかなりできる中国人女性のクラスメイトが「そうだ、そうだ」という感じでぼくに加勢する一方で、モジュール1からずっと同じクラスの韓国人女性のクラスメイトには「まあまあそんなに興奮しないで」といった感じでなだめられたのを今でもよく覚えている。ただ、この先生のすごいところは、内心はどうであったか知らないが、少なくとも表面上はまったく動揺することもなく笑みをたやさず冷静だったことである。おかげでぼくもそれ以上怒る気にならなかったのだが、これはこの先生の長所なのだろう。

 まあいずれにしても、今となってはちょっと苦さの残るいい思い出である。先生にとってはいやな思い出だろうが...。