From Sep to Oct Part2

 のどに不安を抱える中で、仕事そのものにも多少の不安を抱えていた。

 30日の通訳はある工作機械についての講習会であり、まず内容そのものが簡単ではなかった。それに加えて、今回の仕事は逐次通訳ではなく、ウィスパリング通訳であった。
 ウィスパリングとは、耳元でささやくといった程度の意味であり、ウィスパリング通訳とは、ごく少数の人間の側で耳打ちするように通訳することである。今回の仕事で言えば、講習会の講師が話す日本語を、その講習を受けるタイ人の隣でタイ語に通訳するというものであった。というのも、この講習会は基本的には日本人向けの講習会であり、日本人数十人の受講者に対してタイ人は1人しかいなかったからである。

 これは、私が通常やっている逐次通訳のように、ある程度スピーカーが話した後にそれを通訳がタイ語なり日本語に訳すという仕事ではなく、スピーカー(今回で言えば講師)がしゃべっている言葉を通訳も同時進行で訳していくといういわば一種の同時通訳なのである。つまり、単純計算では逐次通訳の2倍の通訳量が要求される仕事であり、のどに不安があった私としては、この仕事自体の負担はもちろんのこと、のどがもつかどうかというのがなにせ心配だったわけである。

 しかし結論から言うと、この仕事でのどをつぶすことはなく、何とかまずまずの出来でこなすことができたと思う。先に書いたように講習を受けていたのはほとんど日本人で、したがって、講師も通訳のために特別ゆっくり話してくれるということはなかったのだが、何せ他の日本人受講者にとっても決して簡単な内容ではなかったので、講師の話す速度が私が思っていたほどのスピードではなかったことと、途中で講師から受講者に質問したりする時間があって、予想していたほどはしゃべり通しではなかったこと、そして何と言っても、事前にテキストが渡されていて、事前の準備にかなりの時間を費やしたおかげだと思う。正直、事前にきちんと準備していなければおそらく無残な結果に終わっていたのではないかと思う。

 そんなわけで、朝から夕方まで丸1日のウィスパリング通訳をたった1人でこなすという、とても体力と集中力と、それにのどがもつと思われなかった仕事を何とかクリアすることができた。しかし、まだ翌日の仕事が残っていた。しかもこの時点で私はまだ翌日の仕事の準備をほとんど何もしていない状態だったのである。