思い込み

 日本は猛暑が過ぎ、ようやく涼しくなったのだが、季節の変わり目ということで少し体調を崩してしまった。先週の金曜日に通訳の仕事があって、仕事が終わった時には声が明らかにかすれているのが自分でも分かった。最初は仕事でのどを使ったからとしか思っていなかったが、よく考えたら軽いカゼを引いていたのである。
 それでも、しばらくすればよくなると思っていたのだが、数日経ってものどがすっきりせず咳が出るので、さすがにこれはまずいと思い、のど飴を買ってきてなめている。次の通訳の仕事はまだ少し先なので問題ないのだが、タイ語を教えていて、そこで発音するし、英語とタイ語のトレーニングで毎日発声しているので、やはりのどは早く治さないといけない。

 さて、話を本題に移そう。上にも書いたように私はタイ語を教えている。すべて個人レッスンで今は4人ほど教えているのだが、普段何気なく使っているタイ語をいざ教えてみると、あらためて気付かされることがいろいろとある。

 タイ語を教えるにあたっては、簡単な言葉でも私はたいていタイ語の辞書で意味を調べて語義を確認するのだが、つい先日、“ห้าง”という言葉の意味を辞書で確認した時に、自分がある思い込みをしていることに気が付いた。

 私は“ห้าง” と聞くと(あるいはこの言葉を目にすると)反射的にデパートを連想する。それはそれで間違いではないのだが、調べた辞書には次のように書かれていた。

สถานที่จำหน่ายสินค้า, สถานที่ประกอบธุรกิจ เช่น ห้างสรรพสินค้า ห้างขายยา. (จ.)


 つまり、私は“ห้าง” と聞けば、条件反射的に“ห้างสรรพสินค้า” が頭に思い浮かぶのだが、実のところデパートは“ห้าง”の一種にすぎないのである(とはいえ、たいていのタイ人もこの言葉を聞けば「センタン」なんかをイメージするとは思うが)。

 もちろん私は例えば“ห้างหุ้นส่วนจำกัด”なんていう言葉を翻訳なんかで時折目にするし、よく考えてみれば、金行なんかの看板にも“ห้างทอง”とか“ห้างขายทอง”などと書いてあった気がする。つまり、“ห้าง” というのは何らかの商いを営んでいる施設全般のことでなのである。ついでに言うと、上に書いた辞書の説明文の最後に“(จ.)” とあるが、これは“จีน”の略であり、つまり、“ห้าง”は中国語が語源なのである(冨田さんの辞書によると「行」という字らしいので、そうなると「金行」はまさに“ห้างทอง”である)。

 なお、タイ語の辞書では、上に書いた“สถานที่จำหน่ายสินค้า, สถานที่ประกอบธุรกิจ”という意味ではなく、別の意味の“ห้าง”が先に出てくるが、こちらはおそらく純タイ語で、発音は同じでも別の語なのではないかと思う。(意味が気になる方はコチラで調べてみて下さい。)