上手に誘いを断る

 いきなりだが、上の文をタイ語に翻訳するとしたら何と書くだろう。
 私などもそうなのだが、いざ訳そうとすると「上手に」という言葉の処理が難しい。この日本語を日本語に「翻訳」すると、例えば、「うまいこと」といったあたりのニュアンスになるかなと思う。そして、この「うまいこと」とはどういうことなのかを考えてみると、この場合は「角が立たないように」とか「相手を傷つけないように」といった意味合いが含まれているように思える。そこまで考えると次の一文は「なるほど」と納得がいく。

 

“ปฏิเสธคำชวนอย่างนุ่มนวล”



 実はこの翻訳文は私が考えたのではない。ある本に載っていたのである。というのは、件の「上手に〜」という文はある書籍の目次に載っている文で、何を隠そう私の手元にはそのタイ語*1があるのである。

 この“อย่างนุ่มนวล”のような表現は、タイ語訳を読んでみるとなるほどと思うのだが、「上手に」という日本語の字面を目にすると、なかなかこういった表現が出てこない。それはひとつには、この表現を十分に使いこなせていないことがあるが、別の側面の問題として、タイ語に翻訳する時に「上手に」という言葉だけを訳そうとしてしまいがちになることがある。もちろん文によってはぱっとタイ語にできるものもあるし、むしろそういうぱっと訳せる文が全体としては過半数を占めていなければ翻訳などできたものではないのだが、中にはどうしても頭をひねらなければならない文もある。そういう時は、タイ語に翻訳する前に、まず日本語の言葉そのものを噛み砕いて解釈する必要がある、あるいは、その言葉が何を言わんとしているのかを掘り下げて考えてみる必要があるということである。

 こういう作業は根気がいるし、精神的にもつらい作業なのだが、結局はこういった地道な作業をコツコツと繰り返していく以外に表現力をつける方法はないということを、実際の仕事を通して実感している。

*1:タイ語訳のほうは以前タイに戻った時に妻が買った本で、その本の原書である日本語の書籍を図書館で借りてきた。