話し方という技術

 今回のセクレタリーの仕事ではうれしいことがあった。自分の話し方について褒められたことである。
 一つは、他の都市のセクレタリーの方から。この方は外国人だったのだが、業務の日程も終盤にさしかかった頃に、この方から「井上さんは説明が分かりやすい」と言っていただいた。前日のブログで書いたように、業務期間中はセクレタリー同士が絶えず無線でやりとりしたり、ミーティングを行なったり、あるいは近くにいる時はお互いにスケジュールなどについて確認し合ったりしたのだが、その時のことを言っていただいたのだと思う。言葉(文字)を使った仕事をする者として、常々表現の仕方には気を付けているつもりだが、今回のように的確な意思の伝達が必要となる仕事でそのようなことを言っていただけたことは非常にありがたかった。

 もう一つは、タイ人のセクレタリーの方から。というのは、今大会は2つの競技があったのだが、そのうちの1種目を私が担当し、もう1種目をこのタイ人セクレタリーの方が担当した。それぞれの種目では日程が異なるので、この方と一緒に仕事をしたのはほぼ初日と最終日だけだったのだが、最終日にこの方から「(説明したりする時に)ゆっくり話をしてタイ語がとても分かりやすい」と言っていただいた。これも非常にありがたい言葉であった。というのも、これは今回の仕事に限ったことではないが、コミュニケーションの場において私はいつも「ゆっくり」話すことを意識しているからであり、通訳の仕事でも「ゆっくり、はっきり、すっきり」通訳するよういつも心がけているからである。特に今回は伝える相手が大人数だったので、ことさら「ゆっくり」話すことを心がけた。

 今回のような仕事では、日本語であれタイ語であれ、言葉を介して必要な内容をきちんと伝えることが重要であり、そのためには、その言語の発音自体がいくら完璧であっても、その内容の伝え方、つまり「話し方」がまずいと伝わるものもきちんと伝わらないのである。話すということは、自分の母国語であれば誰でもできることだが、ある言葉を使って何かをきちんと伝えるためには、話し方という「スキル」が必要となり、言葉はそのための「ツール」にすぎないということをあらためて認識させられた。(とは言え、発音そのものも基本的には明瞭でなければならない。いくら素晴らしいスキルを持っていても、そのスキルを生かすツールに不具合があっては、やはり伝わるものも伝わらなくなってしまうからである)