「チーム」での仕事

 先週の仕事は通常の通訳ではなくセクレタリーという仕事であると書いたが、通訳と違っていたのは仕事の内容だけではなく、仕事の形態も私が通常受けている通訳の仕事とは異なるものであった。
 通常私が受ける通訳の仕事と言えば、企業での研修通訳の仕事が多く、こうした仕事では通訳は私一人である。それ以外の通訳の仕事で別の通訳者(タイ語の通訳の場合もあるし、別の言語の場合もある)と仕事をしたこともあるが、そうした仕事でも役割分担をし、多少助けられたり助けたりはあっても、基本的には自分の通訳する部分は自分でするという形であった。

 ところが今回の仕事は完全に「チームでの仕事」であった。もちろん、私はバンコクチーム担当のセクレタリーであり、基本的にバンコクチームについては私が責任を持たなければならなかったのだが、ただ自分の担当チームだけ見ていればそれでいいという仕事ではなく、セクレタリー全体ですべてのチームのことを見るという形で仕事をすることが求められた。また、各セクレタリーは各チームに様々なことを連絡したり説明したりするのだが、チームから何らかの質問を受けた場合は、それを決して自分で判断せずに、リーダーにまずそのことを伝え、リーダーの指示を受けた上で、自分の担当するチームにその内容を伝えるようにする必要があった。というのも、ちょっとしたことであっても、各セクレタリーが自分で勝手に判断してチームに説明したりすると、セクレタリーによって言うことが違ったりして、大会全体の運営に支障をきたすことになるからである(なにせ各チームの選手と役員をあわせて300名を超える大会であり、セクレタリーのちょっとした勝手な判断が大きな混乱につながりかねない)。翻訳はもちろん、通訳の仕事であっても、これまでこのようなチームワークを要求される仕事をした経験がほとんどなかったので、そういう部分で大変な仕事であった。

 なお、当然ながらセクレタリーはいつも同じ場所にいるわけではなく、というよりも、バスでの移動なども頻繁にあるので、通常はセクレタリー同士が同じ場所に集まって話をすることができない状態なので、今回の大会では各セクレタリーはずっと無線を携帯していた。携帯しているだけではなく、イヤホンを常に耳に入れた状態で仕事をした(変な話、トイレに行った時でも食事中でもイヤホンは耳に入れたままである)。そして、何かあった時にはリーダーなり他のセクレタリーから逐一連絡が入り、各セクレタリーで判断がまちまちにならないように、常にこの無線で意思統一を図っていく。今あらためて考えみると、この無線というのはこの仕事では必要不可欠なツールであった。ただし、1週間も朝から晩までイヤホンをずっと耳に入れたままなので、とにかく耳が痛くて仕方がなかった(他のセクレタリーもやはり耳が痛いのがつらいと言っていた)。もうひとつ、一日のスケジュールが終わった後に(つまり夜に)、あるいは、昼食時や夕食時に、ほとんど毎日セクレタリーのミーティングを行なった。ここで、翌日のスケジュールや活動内容の確認をし、それを踏まえて各セクレタリーが各チームを管理する。これも通常の通訳ではない仕事である。

 そんなわけで、このような仕事が初めてで、しかも普段は一匹狼でマイペースの仕事しかしていない私のような者は、こういうチームでの仕事というのがいろいろな意味で非常に大変だったのだが、逆に、このような形で1週間も一緒に仕事をしたので、お互い自然に仲間意識も出てくるし、最終日の前日の夜には忙しいスケジュールの中でささやかな打ち上げもしたりして、最後には、これでようやく終わりだというホッとした気持ちよりも、むしろ一抹の寂しさを感じたというのが正直なところである(これは、セクレタリーチームだけでなく、バンコクチームに対する愛着も含めての感情であるが)。

 というわけで、通訳とは違った意味で大変な仕事ではあったが、この仕事をセクレタリーの仲間たちと一緒にできたことは非常によかったと思うし、このような仕事をする機会が与えられたことに感謝している。