通訳ではなく「セクレタリー」

 昨日のブログに書いたように、今回の仕事は通訳ではなくセクレタリーという立場の仕事であった。とは言え、やはりタイ語を使う仕事なので、通訳的な要素のある仕事と言うことはできる。というわけで、このセクレタリーがどのような仕事であるかを書く前に、まずは、どういった場での仕事であったかを大まかに書くことにする。
 実は、8月の終わりに東京でとあるスポーツ大会が開催され、その際に私は件のセクレタリーとして業務を行なった。この大会はアジア十数都市のチームが参加するジュニアのスポーツ大会で、参加各都市にそれぞれの言語を話すことのできるセクレタリーが1人ずつ付き、当然ながら私はタイ(正確にはバンコク)のチームを担当するセクレタリーであった。そして、セクレタリー各人が自分の担当する都市のチーム(私であればバンコクチーム)のスケジュールをそれこそ秘書のように逐一管理する。ごく大雑把に言うと、そのような仕事であった。

 もう少し詳しく説明すると、例えば、バンコクチームがまず成田空港に到着すると、まずその時点で、彼らとタイ語で意思の疎通を過不足なく取れる者が必要となってくる。そこで、セクレタリーという立場の者が必要となってくる。逆に言うと、そこからセクレタリーの現場での仕事*1が始まるわけである。もちろん、彼らを空港で出迎えたり、彼らが乗るバスに案内したり、宿泊場所について説明したり、その日の夕食の場所や時間などを伝えたりするといった程度のことであれば、英語だけで事足りるかもしれない。だが、例えば、試合に先立って大会のルールを確認するために行なう監督会議といったようなデリケートな場では、やはり母国語を介した理解が必要になるので、そうした理由から、各都市に一人ずつその国の言葉を解する「セクレタリー」なる立場の者が必要になってくるのである。そして、チームを空港に迎えに行くところから、無事大会を終えたチームを空港で見送るというところまで、セクレタリーはチームと常に行動を共にし、チームのスケジュールを逐一管理する。その際には常にそのチームの母国語(バンコクチームであればタイ語)が介在する。したがって、チームに何かを伝える時は、私であれば当然すべてタイ語でその内容を伝え、チームのほうは質問や要望などセクレタリーに伝えたいことがあれば、これまた当然すべてタイ語でその内容をセクレタリーに伝えるわけである。そういう意味では通訳的な要素が多分に含まれた仕事であることには間違いない。

 通常の通訳と決定的に違うのは、通常の通訳業務であれば、例えば、日本人のJさんとタイ人のTさんがいて、その間に通訳者が入り、この2人が意思の疎通を取れるようにするのだが、今回のセクレタリー業務では、多くの場合、この「日本人のJさん」なる人あるいは団体が目の前に直接いるわけではないのである。実はこの大会は東京都が主催しており、要は、東京都がJさんであり、バンコクチームがTさんにあたるわけなのだが、その東京都(の職員)が、昼食はどこそこで何時からですとか、体育館に向かうバスの出発時間は何時何分ですなどいうことをいちいちバンコクチームの目の前で言うのではなく、それを私のようなセクレタリーが東京都の代わりに各都市のチームに伝えるわけなのである。ただし、業務の中には、上述の監督会議のように日本人がしゃべった内容をそのままタイ語で伝えるような仕事もあるので、そういった業務はいわゆる通訳業務と何ら変わりはない。このセクレタリー業務は、あえて言えば、アテンド通訳に近い業務かもしれない。

 そういったわけで、こういう仕事だと一言で言うのがなかなか難しい仕事であり、そのような仕事だったので、実際に業務を行なうまでは私もなぜ「通訳」ではなく「セクレタリー」なのかと疑問に思っていたわけである。

*1:これは通訳でもそうだが、仕事というのはもちろん現場だけでなく、事前の準備というのも当然仕事に含まれる。