初めてのアテンド通訳(五日目つづき&最終日)

 しかしとにかくまずは風呂に入りたい。ということで部屋に戻って浴槽にお湯を張り、湯船につかっていると電話がかかってきた。どうやらもう宴会を始めているようである。

 風呂から出て着替えをし、ホテル内の自販機でビールを買ってから宴会をしている部屋に入ると、すでに10人近く集まっていた。スペースにはややゆとりがあるとは言え、ホテルのシングルルームにである。この日は最後の夜ということで女性陣も含めてそれまでは飲み会に参加していなかった人も来ていた。

 宴会ではあるが、この日のメインイベントは何と言ってもトランプである。部屋の床のカーペットの上にバスタオルを敷き、その周りを10人近くが取り囲んでトランプをするのである。彼らがしていたゲームはタイ語で「ป๊อกแปดป๊อกเก้า(ポーク・ペート・ポーク・カーオ)*1」と言う。

 ルールが分からないのでまずタイ人にルールを聞くと、配られたカードの合計が8(แปด)か9(เก้า)になれば勝ちになるゲームだと言う。なんだか日本でも似たようなゲームがあったなと思いながら、最初はこの8(แปด)でも勝ちという言い方がよく分からなかった。(勘のいい人あるいはトランプ好きな人ならこの時点ですぐに分かったであろうが。)

 そして、みんながゲームしているのをしばらく見ながらさらにゲームのルールをタイ人に聞いていると、ようやくゲームのやり方が理解できた。まず、このゲームにはタイ語で「เจ้ามือ(ヂャオ・ムー)」という日本語で言うところの「親」が一人いて、この人がまず1人2枚ずつカードを「子(ลูกมือ:ルーク・ムー)」に配る。それぞれの子は配られた自分のカードを見て、その合計が8かあるいは9なら「ป๊อกแปด(ポーク・ペート)」あるいは「ป๊อกเก้า(ポーク・カーオ)」と言ってカードを表にしなければならない。それ以下の場合はさらに1枚カードを引くことができるが、もう1枚カードを引くかどうかはその人の判断による。ちなみに絵札のカードはすべて10で計算し、カードの合計が10を超えた場合は、下一桁の数がその点数となる(例えば合計が「14」なら「4」)。そして、子の合計点が親よりも高ければ賭けた分を親が払わなければならず(例えば、10賭けていれば10親からもらえる)、親のほうが子より合計点が高い場合は親が子の賭けた分をもらえる。また、合計点が同じ場合は両者引き(引き分け)となる。

 これが基本的なルールで、さらに特別ルールとして、2枚のカードのマークが同じ場合でそのゲームに勝てれば(合計点が高ければ)、賭けた分の2倍もらえる。同じように3枚のカードのマークが全て同じでそのゲームに勝てれば、賭けた分の3倍がもらえる。あとは、2枚とも同じ数字でゲームに勝てれば3倍、3枚ともすべて3の場合は5倍だそうである(ちょっとうる覚えで自信がないが)*2

 ここまで理解してようやく思い出した。これは日本のトランプで言う「株(カブ)」だ(と言っても知らない人もいるだろうが)。大学生の頃部活の先輩たちとやった記憶がある。最初に1人のタイ人からこういうゲームをやったことがあるかと聞かれて「ない」と答えたが、実はやったことがあったのだ。大学の部活で試合で旅館などに泊まった時に、座布団を敷いてマッチ棒を使って株をした記憶が急に鮮明によみがえってきた。

 ひとつぼくにとって意外だったのは女の人も一緒にこのゲームをしていたことである。これはある意味ぼくの偏見なのかもしれないし、ぼくがタイの女性をまだ良く分かっていないせいかもしれない。一般的に日本人は、タイ人は賭け事が好きだと揶揄することが多いが、ゲームをしている時の彼らは本当にいきいきとしていて、男も女も関係なくみんなで楽しんでいる姿は悪くないなと思った(もちろん美化するつもりは決してないが)。最初は電気屋で買ってきたPSPをやりながら片手間にトランプをやっていた人がいたが、この人も途中からはPSPをやめてマジになりだした。

 そんなわけで、午前2時までトランプをやってお開きとなり、その後も残った4人がさらに別のトランプをやっていたが、ぼくもさすがにこれで失礼させてもらった。

 そして、いよいよ翌日の最終日。とは言っても、この日は空港に言って彼らを見送るだけである。飛行機は10時30分発で、ホテルから空港までは1時間ほどかかるので、7時20分にホテルを出る予定だった。

 今回の日程中に何度か買い物する時間があり、特に女性がかなりの買い物をしていたので、前々日に希望者には段ボールを配っておいた。そんなわけで荷物はかなりの量になっていた。

 いつもそうだが、ホテルを出発する際は常に人数をチェックする。この日もこまめに人数チェックをし、あと1人で揃うという状態になった。これまでもけっこうギリギリに来る人もいたので最後の1人もそのうち来るだろうと思っていた。

 ところが7時10分になっても、最後の1人がまだやって来ない。このあたりからさすがにちょっとおかしいなと思い始め、15分になったところでフロントから彼女の部屋に電話をしてみた。5、6回コールしたところで電話に出て、「おはようございます。もう起きてますか。」と聞くが、返事がない。さらに聞くと、まだ寝ていたと言う。そこでぼくは時間を告げ急いで仕度をするよう頼んだ。そして、他の人には先に荷物をバスに積み込んでもらい、すでに荷物を積み終わった人がこのまだ寝ている人の部屋に行き、荷物を運ぶ手伝いをする。

 しばらくして彼女が降りてきたので、話を聞くと目覚ましが鳴らなかったと言う。彼女にまだ寝ていたと言われた時は、さすがに「なんてこった」とは思ったが、自分でも不思議なことにそれほど慌てることはなかった。5日間タイ人と一緒にいてタイ人のペースに慣れたせいかもしれない。

 そんなわけで、結局ホテルを出たのが7時30分過ぎであった。

 空港には1時間ほどで着くと思ったが、意外と時間がかかり空港に着いた時にはすでに8時45分近くになっていた。これが1人2人なら問題もないが、なにせ20人の集団なのでチェックインにもそれなりの時間がかかる。

 ただ、幸いなことにチェックインカウンターはそれほど混んではおらず(彼らの後に並んだ人は逆にアンラッキーだろうが)、チェックインの際はぼくが1人ずつ横に着いてカウンターの職員に説明した。空港に来る前は荷物の重量オーバーをかなり心配していたのだが、蓋を開けてみると、男性などは25?どころか大半が15?程度で、心配していた女性陣も一番重い人でも30?を越えている人はいなかった。ただし、その分手荷物が多く、カウンターの職員が機内に持ち込む手荷物は1人1つだけというので、荷物の少ない男性陣が女性陣の荷物(段ボール)を持ち込むことになった。

 無事にチェックインが終わると、すでにかなりいい時間になっていたが、最後にまた空港での写真を撮り、その後、最後のお別れをすることにした。変な話だが、これまでやってきた研修通訳とは違って、5日間まるまる一緒に過ごした人たちだけあって、仕事とは言いながらも、お別れする時に一抹の寂しさを感じたほどであった。

 最後に、空港の中に入っていく彼らに手を振って見送り、「来年また会いましょう」というひとりの声を聞いた後、ぼくも空港を後にした。



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*1:「ป๊อกเด้ง(ポーク・デン)」あるいは「ป๊อกเก้า(ポーク・カーオ)」とも言う。

*2:ただし、この辺りのルールはおそらく人によって多少違うものと思われる。