初めてのアテンド通訳(四日目)

 四日目は午前と午後にそれぞれ1ヶ所ずつ工場見学をして、その後、電気屋で買い物である。すでにお気付きの人もいらっしゃると思うが、今回の日程には買い物の時間がけっこうある。

 今回見学する工場は当然ながらタイ人たちがタイで働いている会社の親会社の工場であり、中でも今回見学に行くのは、自分たちがタイで作っているのと同じものを生産している工場である。

 バスが1箇所目の工場に到着し、案内された入口を一歩入ると、目の前には純白のレクサスがどうだと言わんばかりの迫力で鎮座していた。そして、担当の職員がこのレクサスについて説明してくれた。というのも、この工場で生産しているある自動車部品がこのレクサスに使われているのである。しかし、部品そのものを展示するのではなく、このように入口に車両を置いておくのはいいかもしれない。タイ人従業員にしても普段自分たちがつくっている部品が最終的にはこのような形になるのだということが目に見えたほうが仕事のモチベーションも上がるかもしれない。

 担当の職員の方の話によると、このレクサスの日本での価格は1100万円で、まずその性能の素晴らしさについてひと通り説明してくれた後、この車両に乗ってみても(座席に座ってみても)いいということになり、当然ながらタイ人たちの撮影会が始まった。ちなみに、タイ人の話によると、タイではこのモデルは1100万「バーツ」するそうであるが、日本とタイの物価の差を考えると、これがいかに現実離れした価格であるのかがよく分かる(日本に住んでいる日本人の感覚で1,100万円の車でも十分現実離れしているが)。しかし、それがタイで売られているということは、つまりはそれを買う人あるいは買えるだけの財力のある人が少なからずいるということなのである。

 撮影会が終了すると、今度は会議室に入って会社の概要についてひと通り説明を受けた。当然ながらここでぼくが通訳をしたわけだが、説明の中で何兆円という単位の数字が出てきて、その場でとっさにタイ語にできず冷や汗を書いた。ちなみにタイ語では1兆は「หนึ่งล้านล้าน(ヌン・ラーン・ラーン)」なのだが、通訳の仕事をしていてこの程度の数字がパッと出てこない自分が情けないというか全くもって準備不足というか、とにかく反省しきりである。ちなみに「ล้าน(ラーン)」は百万なので、「ล้านล้าน(ラーン・ラーン)」だと「百万×百万」ということになるのだが、興味のある人はこれが本当に1兆になるかどうか計算して確かめてみてほしい。

 会社概要の説明が終わると、次はいよいよ工場見学である。ただし、そのまま工場に入るのではなく、工場に入る前に、「あるもの」を着用しなければならず、実はみんなが座っている机の上にそれらのものがすでに置かれていた。

 着用しなければならないものとは、ひとつは帽子で、もうひとつは安全メガネである。このあたりの道具は工場に入る際の最低限の安全具なのだが、実はもうひとつ意外な道具があった。イヤーフォンである。というのも、工場の中は音がうるさいので地声で説明してもその声が通らないのである。それに、声が通ったとしても20人が一度に見学するのだからやはり列の後ろの方の人はきっと聞こえないだろう。

 というわけで、片耳にかけるタイプのイヤーフォンをみんな着用したのだが、こういうのを使って通訳したことのないぼくは少々プレッシャーを感じた。なぜなら、これだと通訳の声がよく通るのは間違いないのだが、逆にちょっとでも言い間違いをしたり、しどろもどろなことを言ったりしてもはっきりと聞こえてしまうからだ。そして実際、工場見学の通訳は難しかった。というのも、タイ人たちが現地でどのような製品をつくっているのか事前には細かいことは分からなかったし、見学する工場で何がつくられているのかさえも直前まで分からなかったので、工場内の細かい内容について事前に調べておくことができなかったからだ。ぼくが事前にできたと言えば、この会社のウェブサイトでどんな製品が作られているのかをチェックし、その製品のタイ語の名称を可能な限り調べておくことぐらいであった。

 そして、やはり予想通り、内容によっては日本人の担当者が日本語で説明してくれてもよく分からないこともあり、イメージがわかなくても時にはそのまま訳さなければならないこともあるが、どうしてもそのままでは訳せないという時は担当者に再度の説明を求めた。

 ということで、工場見学の通訳にはかなり苦労したが(実際にタイ人のひとりから、数字についてつじつまが合わないおかしなことを言っていたと指摘された)、何とか工場見学の通訳を終えて会議室に戻り、最後に質疑応答が行われた。

 質疑応答では(ぼくにとっては)意外にも質問するタイ人が多く、最終的には質疑応答の時間が足りないほどであった。中にはぼくには内容のイメージがわきかねる質問もあったのだが、そういう時はたいていそのまま訳しておけば問題なく意思の疎通は図れるものである。
 そして予定の時間をややオーバーして1箇所目の工場見学を終え、バスで2箇所目の工場へと向かった。(つづく)



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