日本で何をする?(その七)

 どれだけがんばって訳語を調べても分からないこともあるし、実際、後から現場の人にその言葉の意味を聞いてみると、そりゃあ意味を聞かないと分からんわと思うことも少なくない。例えば、某大手自動車会社では、プレス工程の部品の品質不良を表す言葉のひとつに「シャクレ」という言い方があるのだが、こんな言葉はグーグルで検索しても意味などまず分からないので、現場の人に聞くしかない。さらには現場の日本人に意味を聞いたって、それを適当なタイ語に言い表すことがまた難しい。この「シャクレ」について言えば、ぼくはまず辞書サイトで「しゃくれる」の意味を調べ、「中ほどが弓なりにくぼんでいる」という意味だと分かったので、そこからタイ語の訳語を考えたのだが、実際に研修生のタイ人に聞いてみると、ぼくの考えた訳語とはやはり違っていた。ちなみに、ここでの「シャクレ」とはドアなどの端部が反りかえっている品質不良で、タイ人の研修生によるとタイの現場では「แอ่นขึ้น」という言うそうである。この言葉は意味合いとしては「弓なりに反り上がっている」といった程度の意味になるので、結果的には「しゃくれる」と似たような意味であった。

 というわけで、通訳の際に出てきそうな言葉の訳語をあらかじめ調べておくことは、ある程度は必要であるが、それにも限界があるので、あまり事細かく調べようとするとかえって時間の無駄になるし、最終的に徒労に終わることも少なくない(ただし、長い目で見ればそれは無駄にはならないのだが)。

 そこで、訳語を調べること以外に事前の準備として何をすればいいのかということになるのだが、これまでのぼくの微々たる経験から分かったことは、「通訳する内容の大まかなイメージをつかんでおくこと」である。例えば、先ほどのプレス工程で言えば、プレス工程とはどのようなことをする工程なのかを大まかに理解しておくことが大切になる。と言うのも、これまでもこの日記に何度も書いてきているように、話している内容に関する知識がないと、それがたとえ日本語であっても、通訳にとっては意味をなす言葉として耳に入ってこないのである(例えば、以前の苦い経験で言うとコンピュータのプログラムの話などがその一例である)。逆に100%とはいかなくても、ある程度その内容に関する知識があれば、たとえ分からない言葉が出てきても、全体の流れをつかんでいれば何とか対応できるものなのである。

 では、どうやって通訳する内容の大まかなイメージをつかむかと言えば、事前に十分な資料がある場合は、まずはそれをしっかり読むことである。ただ、資料を読む時にどうしても「この言葉の訳語はなんだろう」と考えたくなるので、その気持ちを抑えて、まずは内容の理解のみに努める。そして資料を読んでいく中で、日本語であっても意味の分からない言葉がいくつも出てくるので、そうした言葉の意味をまずは調べていく。もちろん最初は辞書(サイト)で調べ、辞書に載っていない(辞書サイトで検索してもヒットしない)ような言葉であれば、グーグルで検索する。そして、このようにグーグルで検索していくうちに、資料の内容に関係のあるサイトなどが見つかるので、その場合はそのサイトをお気に入りに入れておき、参考資料とする。

 こうして日本語として内容の大まかなイメージがつかめたら、今度は事前に調べておいたほうがよいと思われる言葉の訳語を調べていく。大まかなイメージがつかめていると、通訳の当日にどのような言葉が使われるのかある程度は分かってくるので、最初から言葉の訳語だけをやみくもに調べるよりもこちらのほうが効率的である。そして、タイ語の訳語を調べる際にもグーグル(タイ語版)で検索するので、検索していくうちにやはり役に立ちそうなタイ語のサイトが見つかるので、それもお気に入りに入れておく。

 というわけで、結論としては、どうせ事前勉強をするなら、的外れな勉強をするのではなく、できるだけ本番の役に立つような勉強をしたほうがいいということである。ちなみに、通訳の事前勉強のイメージとしては、学校の定期テスト前の試験勉強に近いものがあると思う。



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