タイ語を教える(その3)

 タイ語を教えること自体には以前から興味があったのだが、教えた経験があるわけではないので、いざ教えるとなるとやはり何からどう教えたらよいのか迷ってしまう。そこで、自分自身がタイ語を学んだ経験と普段このブログに書いているような考えをベースにして教えることにした。

 そして、タイ語学校のテキストも参考にして、やはりまず最初はタイ語の発音のしくみについて、具体的に言うとタイ語の母音と子音、声調について教えることにした。

 この人はこれまでにタイ語の本などを読んだことはあるようだが、基本的にはまったくの初心者に近い状態である。どの程度なのかと言えば、1から10までの数字をタイ語で言うことができない程度であり、ぼくの経験から言えば、数字が言えないということはその言語についてまだほとんど知らない状態である。

 順番としては、まずは母音の発音を教えた。タイ語の母音はこのブログにも以前書いたように、基本となる母音は長母音と短母音をあわせて18音ある。そして、やはりというか、実際に発音してもらうといくつかの母音の発音がうまくいかない。しかし、最初は誰でもそうであり、できるほうがおかしい。

 次に教えたのが子音。タイ語の子音というのは文字で数えると42字もあるので覚えるのが大変なのだが、字は違っても音は同じものがたくさんあるので、音自体は文字数の半分もないのである。しかし、やはり子音の中にも(大半の日本人にとっては)発音するのが難しい音がある。この人の場合はまず「ง」がうまくいかなかった。これは予想通り。タイ語が話せるようになると「ง」の発音のどこが難しいんだと思うのだが、一般の日本人はコツがつかめるまでこの音を出すのにちょっと苦戦するのである。

 それからもうひとつ事前に難しいかもしれないと予想していたのが、有気音と無気音の発音。例えば「パ」という音ひとつとっても、タイ語には息を吐く「パ」(いわゆる有気音)と息を吐かない「パ」(いわゆる無気音)がある。そして日本人も実はこれらの音を発音し分けているのだが、日本語では表記の上では区別がなく無意識のうちに発音し分けているので、いざ意識的に区別して発音しようとするとうまくいかなくなるのである。そしてこの人にもそのことは事前に説明はしたのだが、案の定なかなかうまくいかなかった。このあたりも発音できるようになれば何が難しいのか逆に分からないという状態になるのだが、コツがつかめるまではやはり難しいのである。もうこれは慣れてもらうしかない。

 このあたりまではいわばぼくの想定の範囲内であったわけだが、ちょっと意外だったのが「ร」と「ล」、英語で言うと「R」と「L」の発音である。ご存知のように「L」のほうは何も意識せずに「ラ」とか「リ」とか言えばいいのだが、「R」のほうはいわゆる巻き舌の音にしなければならない。ところがこの人はこの巻き舌ができないのである。これは個人差もあるのだろうが、正直ぼくには意外だった。というのは自分がこの「ร」の発音で苦労した記憶がないからだ。ただ、これも本当に発音できないというより「意識」しすぎるあまり発音できないというほうが正しいであろう。このあたりもそのうち自然にできるようになるはずである。また、子音ではついでに二重子音の発音も教えたのだが、この二重子音の発音もやはり難しかったようだ。ただし、これはある意味当たり前のことで、二重子音は「有気音」と「無気音」、それから「ร」と「ล」の音が含まれており、これらそれぞれの音を正確に発音し分けられないのにそれらの音が含まれている二重子音を正確に発音し分けられるわけがないのである。

 そして最後に、5つあるタイ語の声調を教えて第1回目のレッスンは終了した。しかし当然ながらこれだけで十分であるはずはない。ただし、週1回しかないのにこんな発音の練習を毎週毎週やるわけにはいかない。そこでぼくはMP3の音声ファイルを作ることにした。レッスンの後に音声ファイルをメールで送り、次の週まで時間のある時にできるだけ発音の練習をしてもらうことにしたのだ。