音節を意識する
もうタイ語の読み書きの話はいい加減やめようと思ったのだが、あとちょっとだけ。
タイ語の発音を考える際に重要な要素のひとつに「音節」という単位がある。しかしおそらく多くの日本人はこの「音節」に対する意識があまりないと思われるので、まず「音節」の意味を見てみると辞書には次のように書かれている。
「(1)ある言語で、通常一まとまりの音として意識され、発音される単位。日本語ではほぼ仮名一字が一音節にあたる。シラブル。」(『大辞林第二版より』)
で、最初に書いておくがこの「日本語ではほぼ仮名一字が一音節にあたる」という部分がタイ語と日本語の発音の違いを理解する上でけっこう重要になってくる。例えば、上の説明に書いてある「シラブル」という言葉があるが、この「シラブル」という「日本語」は音節で言えば「4音節(シ・ラ・ブ・ル)」なのである。次に、このシラブルを英語で書くと「syllable」となるのだが(というかそもそもこの言葉はもともと英語だが)、「syllable」という英語だと「3音節(syl / la / ble)」なのである。そして日本語とタイ語の音節の違いというのも実はこの「シラブル」と「syllable」の関係に似ていて、この違いを意識することがタイ語の上達には非常に重要だとぼくは思っている。
さて、前置きが長くなったが、せっかくなのでこの「音節」のタイ語も紹介しておこう。
「พยางค์」という。アルファベットで発音を表記すれば「phayaang」である。これはタイ人である妻と話をしていて気が付いたのだが、タイ人というのは単語の音の長さをこの「พยางค์」で、つまり「音節」という単位で意識している。
ではひとつ、日本語とタイ語の音節の違いが如実にあらわれている具体例をあげてみよう。
「McDonald's」
この店が日本語でなんと呼ばれている(書かれている)かご存知だろうか。そう。「マクドナルド」である。
さて、ここで問題である。この「マクドナルド」という日本語は何音節であろうか?そう。「マ・ク・ド・ナ・ル・ド」の6音節である。
次に、この「McDonald's」をタイ語で書くと次のようになる。
「แมคโดนัลด์」
では、ここでまたまた問題である。この「แมคโดนัลด์」というタイ語は何音節であろうか?これはちょっと説明させていただいたほうがいいだろう。タイ語の「พยางค์(音節)」の考え方は、基本的には「子音と母音の組み合わせ」が1つの音節となる。では、1音節の単語を具体的にあげてみよう。
①「เค้า (khao)」「ช้า (chaa)」「ไม้ (mai)」「รู้ (ruu)」
②「คุ้ม (khum)」「ช้าง (chaang)」「นิ้ว (niu)」「พื้น (phUUn)」
①は「頭子音+母音」の組み合わせ、②は「頭子音+母音+末子音」の組み合わせであり、タイ語で1音節という場合はこの2つのパターンが考えられる。
この考え方をふまえて「แมคโดนัลด์」をもう一度見てみると、
「แมค / โด / นัลด์」というように音節を分けることができる。ということはつまり、「แมคโดนัลด์」というタイ語の音節は「3音節」なのである。
いかがであろうか。もとは同じ「McDonald's」という言葉であっても、日本語とタイ語ではこのように音節の数が違うのである。そして、うちの妻に言わせると、同じ「McDonald's」なのになんで日本語はこんなに発音が長ったらしいんだということになるのであり、日本語の発音が長いという根拠は彼女に言わせれば、タイ語のほうが「พยางค์(音節)」が少ないということになるのである。また、日本語とタイ語ではかくのごとく音節数に違いがあるので、もとは同じ「McDonald's」であっても、発音そのものも大きく異なるのである。
この「McDonald's」の日本語とタイ語をもう少し詳しく比較してみると、日本語の「マ・ク・ド・ナ・ル・ド」の「マ・ク」の部分がタイ語では「แมค」と1音節になっており、大きく発音が異なる。次の「ド」はタイ語では「โด」にあたり、これは同じ1音節で発音もそれほど違いはない。ところが最後の「ナ・ル・ド」の部分はタイ語では「นัลด์」とたったの1音節で、特に最後の「ド」はタイ語では発音されないので、日本語とタイ語では似ても似つかない発音になっている。
ただし、同じように英語であっても、例えば「technology」のような言葉だと、日本語では「テクノロジー」で5音節(テ・ク・ノ・ロ・ジー)、タイ語では「เทคโนโลยี」で4音節(เทค / โน / โล / ยี)といったように、音節の数もそれぞれの音節の発音もそれほど大きく変わらないので、日本人が「เทคโนโลยี」というタイ語を耳にしても、それが「technology」という英語だということが比較的容易に分かるのである。
実際の音声で発音の違いをご確認下さい。↓