タイ語の発音が日本語で表記できないわけ

 2月の終わりぐらいまではわりとまめにタイ語の読み書きについてブログを書いていたのだが、3月になってにわかに仕事が忙しくなりブログを更新する時間がなくなったため、タイ語の読み書きの話が中途半端なところで途切れてしまった。で、今さらその続きを書くのも文字どおり間が抜けていていやなのだが、かといってこのまま書かないのも気持ち悪いのでもう少しだけ続きを書くことにする。

 タイ語という言葉は日本語では発音を正確に表記することはできない。これには大きく分けて3つの理由がある。

 まず一つ目は、タイ語という言語には5つの声調があり、タイ語は文字でその声調の違いを表記できるのだが、日本語では声調の違いを文字で表記することができないため、日本語ではタイ語の発音を正確に表記することができない。例えば、タイ語には「新しい」という意味の「ใหม่ (mai)」という言葉があり、この文字を読むことができれば、この「ใหม่ (mai)」の声調は5つの声調のうちの第2声調であるということが分かる(声調のしくみについては1、2月の日記に書いている)。また、タイ語には「燃える」という意味の「ไหม้ (mai)」という言葉があり、やはりこの文字を読むことができれば、この「ไหม้ (mai)」の声調が第3声調であるということが分かる。ところが、この2語を日本語のカタカナで表記するといずれも「マイ」となり、区別がつかなくなってしまう。これは英語で表記する場合も同じことである。

 次に二つ目は、タイ語の母音と子音には日本語の母音と子音にはない音があるため、日本語ではタイ語を表記しきれない。例えば、母音で言うと、タイ語には口を大きく横に広げる「ウ」と口をすぼめる「ウ」とい2種類の「ウ」あるが、日本語には「ウ」は1種類しかないため、その違いを日本語では表記できない。また、子音の場合でも、タイ語にはあるが日本語にはない音があるため、やはり日本語では表記しきれない場合がある。ただし、子音の場合は日本語にはあってタイ語にはない音というのもあって、例えば、自動車会社の「スズキ」や「イスズ」などをタイ語で表記すると「ズ」も「ス」も同じ子音になってしまう。

 最後に三つ目だが、例えば、タイ語には「ตะ」という音と「ทะ」という音があって、これを英語で表記するとそれぞれ「ta」と「tha」と表記されるのだが*1、日本語の場合は両方とも「タ」になってしまう。どうしてこうなるのかというと、タイ語の子音は発音する時の「息の吐き方」で大きく2つのグループに分けることができ、日本語では同じ「タ」と表記される音であっても、タイ語の場合は、「ตะ (ta)」は「無気音」、「ทะ (tha)」は「有気音」というように区別されているからなのである。ちなみに、「無気音」というのは発音する時に息を吐き出さない音のことで、息を吐き出さないため口の中で音がこもり、どちらかというと濁った音に聞こえる。それに対して「有気音」というのは発音する時に息を吐き出す音のことで、息を吐き出すので音が濁らずにはっきり聞こえる。実は日本語にも無気音の音もあれば有気音の音もあるのだが、日本語の場合は文字で表記する時に無気音と有気音を区別しないため、「ตะ (ta)」であっても「ทะ (tha)」であっても同じ「タ」と表記するしかないのである。逆に言えば、文字では同じように「タ」と表記される言葉であっても、実は有気音のものもあれば無気音のものもあるのだが、日本人はその違いを意識することなく使っており、例えば、「トヨタ(豊田)」の「タ」と「タナカ(田中)」の「タ」は、同じ「タ」でも実は発音が違うのである。

 この無気音と有気音というのは上にも書いたように通常は日本人はその違いを意識することなく発音し分けているのだが、タイ人と日本語の話をすると、実は自分が知らず知らずのうちに無気音と有気音を使いわけているのだということに気付かされる。例えば、「近い」と言えば、日本人だったら「チカイ」以外にはありえないのだが、うちの妻などがこれを聞くと、「そのカには点々が付くのか」などと聞いてくる。というのも、日本人は「カ」と言えば1種類しかないと思っているが、実は同じ「カ」でも日本人は無気音と有気音を無意識のうちに使いわけていて、タイ人がこのように「点々が付くのか」と聞いてくるような時の「カ」は間違いなく「無気音」なのである。というのも、無気音というのは息を吐き出さないので濁った音に聞こえると先ほど書いたが、「濁った音」というのは、日本語で言うと「濁点」、つまりうちの妻が言うところの「点々」が付いた音に発音が近いのである。そして、同じ「カ」という表記でありながら、言葉によって日本人の発音が有気音であったり無気音であったりするのでタイ人はとまどうのである。ちなみにぼくは妻に、「発音を聞いて点々が付くのかどうか迷った場合は点々は付かない」と言っている。というのも、日本語では「ガ」と発音する時は「カ」とはまったく音が違うので、「カ」なのか「ガ」なのかどちらか迷うということはつまり「ガ」ではないのである。

 と話がいささかそれてしまったが、それぞれの言葉の違いというのは、たしかにやっかいではあるが、その違いが分かってくるとこれはこれでなかなか興味深いものでもある。

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*1:ただし、この「ta」と「tha」を英語圏の人がどう発音し分けているのかは知らない