翻訳と通訳の違いとは
今せっかく通訳の仕事をしているので、今回は翻訳と通訳の違いについて考えてみようと思う。
まず、「翻訳」と「通訳」という言葉の定義を見てみると、辞書(三省堂『大辞林第二版』)には次のように書かれている。
「翻訳」
ある言語で表現されている文を、他の言語になおして表現すること。また、そのなおされた文。
「通訳」
言葉が異なるために話が通じない人々の間に立って、互いの言葉を翻訳して話の仲立ちをすること。また、その人。
大きな違いは2つある。1つは、翻訳は基本的に文章の世界であり、通訳は基本的に会話の世界であるという点。そしてもう1つは、翻訳が基本的にワンウェイであるのに対して、通訳はツーウェイであるという点。
1点目については誰でも比較的容易に気がつく点なので、ここでは2点目についてもう少し掘り下げてみたいと思う。
まず翻訳がワンウェイというのは、「ある言語で表現されている文を、他の言語になおして表現する」とあるように、例えば、タイ語と日本語であれば、タイ語→日本語あるいは日本語→タイ語というように一方通行の作業であるということ。それに対して通訳は、2言語の間に立つという点では翻訳と同じであるが、タイ語→日本語の場合もあれば日本語→タイ語の場合もあるという点が、つまりタイ語⇔日本語の双方通行であるという点が翻訳とは大きく異なる。
実際、翻訳という作業は、ぼくの場合で言えばほとんどがタイ語→日本語なので、タイ語で書かれている内容を日本語に置き換えるというその1点に注力すればよいのだが、通訳の場合は、タイ語を日本語にする場合もあれば日本語をタイ語にする場合もあるので、そのたびに頭の中の回路を素早く切り替えられる能力が求められる。一般に翻訳と通訳はひと括りにされる傾向にあるように思うが、このように見ていくと実は似て非なるものであることが分かってくる。
さらに言えば、先ほど書いたように、翻訳というのはひとつのことに没頭する作業であるとともに、少なくとも作業中は他の人と接触することがないので、言うならば内なる世界での作業であると言うことができる。それに対して通訳は、やはり先ほど書いたように双方向の作業であり、人と人のコミュニケーションの場に身を置いているという点で、外の世界での作業であると言うことができる。これをざっくりと分けてしまえば、翻訳は内にこもってやる作業で、通訳は外に出て行なう作業と言うこともできる。
このように考えていくと、翻訳と通訳に求められる資質というのはかなり異なるものであり、実際、ひとりの人間が翻訳と通訳を両方とも高いレベルでこなそうとするのは極めて困難なのではないかとぼく自身常日頃から感じている。