読まんのに書くな

 と心の中で悪態をついた人もおそらくひとりやふたりではないだろう。ちなみにぼくは悪態をついたことはないが。

 そうなんである。タイ語ってヤツはなかなかのひねくれ者で一筋縄ではいかないどころか縄が何本も必要なほどの聞かん坊だと言っても過言ではない。その点ラオス語は素直でいいよなあなんて話をしだすとそろそろ訳が分からなくなりそう*1なので本題に入る。

 今日は実はボインの話でもなければ子音の話でもない。実はタイ語には「読まんのに書く」という言葉がいくつかある。と言っても4つや5つではない。もっとある。論より証拠で具体例をあげてみよう。

 การันต์

 今までこのブログを読んできてくださった方はこのタイ語を読めるだろうか。一見読めそうなのだが実はちょっと変なもんがついていることにお気付きだろうか。そう。一番最後についているおたまじゃくしみたいなやつのことである。今日はこいつについて説明しようと思う。

 長ったらしい説明をしてもしょうがないのでスパッと一言。

 「こいつ→が上に付いている文字は読まん!!!」

 だから、「การันต์」で言うと、「ต์」の部分は読まず、読むのは「การัน」の部分だけなので、「kaaran(カーラン)」と読む。ちなみにこのおたまじゃくしみたいな記号のことをタイ語では「การันต์」という。そうなのだ。実はこの「การันต์」というタイ語がこのおたまじゃくしのことだったのだ。しかも自分の名前にも自分()が付いているというシャレまできかせているのだこやつは。

 このおたまじゃくしがついている単語はタイ語の中でも借用語と呼ばれる部類の言葉である。もう少し説明すると、タイ語の語彙にはサンスクリット語パーリ語から借用している語彙が相当あって、サンスクリット語パーリ語をタイ文字に当てはめる際にできるだけ原語のつづりに忠実な表記にするために発音しない文字に無理矢理このおたまじゃくしをつけたらしい。そのために現代のわれわれ外国人タイ語学習者は苦労することになるのだが(というかタイ人の生徒も苦労していると思うが)、ぼくはこのような一見非合理的なタイ語のつづりをあえてタイ語の「粋」だと考えたい。すべてが理詰めで何の矛盾も例外もない言語があればそれはそれで便利かもしれないがやはりそれでは面白みがないだろういうことである。

 それから、サンスクリット語パーリ語借用語以外に、英語などからの借用語にもこのおたまじゃくしが付けられている言葉があるのでそれもあわせて紹介していきたい。ではどうぞ。

 สัตว์

 最後の「」にはおたまじゃくしが付いているので読むのは「สัต」の部分だけ。ということでこれは「sat(サット)」と読む。意味としては、植物を除く生きとし生ける全てのもので、まあ一般には犬とか猫とか猿とかああいって生き物の類のことである。

 สมบูรณ์

 最後の「」にはおたまじゃくしが付いているので読むのは「สมบูร」の部分だけ。「สม」は隠れボインの「o」なので「som(ソム)」と読み、「บูร」は「頭子音のb」+「(ボインの)uu」+「末子音のn」なので「buun(ブーン)」と読む。つまりあわせて「sombuun(ソムブーン)」と読む。バンコクには日本人によく知られたシーフードレストランで「ソンブーン」という店があるが、この店の名前が実はこの「สมบูรณ์」である。ちなみに日本語媒体ではたいてい「ソンブーン」と書かれているが、これは耳で聞いた場合は「ソン」と聞こえるのでそう表記されているのである。ただし、ぼくはタイ語の読み書きの話をしているのでつづりにしたがって「ソムブーン」と表記している。さて、この「สมบูรณ์」だが当然どういう意味が気になるところだろう。使い方としては、例えば、健康や生活が満ち足りていたり、海や土地などが豊かな状態を表すのに使ったりする。

 สัปดาห์

 最後の「」にはおたまじゃくしが付いているので読むのは「สัปดา」の部分だけ。ということでこれは「sapdaa(サップダー)」と読む。この言葉はどちらかというと書き言葉的だが、わりと頻繁に出てくる言葉でネットでタイのFMなんか聞いていると必ず一度や二度は耳にすると思う。意味はずばり「週」である。

 さて、英語の借用語もご紹介しようと思ったのだが例によって疲れたのでそれはまた今度ということで。

*1:逆にこれが訳が分かる人はタイ語の読み書きはもうバッチリ大丈夫