末子音と声調の関係

 いきなりだが「末子音」。単語の最後に付く子音のことである。

 この末子音も前に紹介した42字の子音を使うのだが、この末子音をクリアしないとタイ語の読み書きと発音の関係が分かるようにならない。逆に言えば、ここが分かればタイ語の読み書きはひと山越えたと言ってもいいと思う。

 さて、日本語で「末子音」と何度書いたって今いちピンと来ないだろうから、ひとつ例をあげてみよう。

 คาด

 この単語の最後の「ด」のことを「末子音」と言う。この単語の場合は、まず子音の「ค」があって、その次に母音の「า」がついて、最後に末子音の「ด」が来る。

 ちなみに上記の最初の子音のことを「頭子音」と言うのだが、実はタイ語の子音というのは、頭子音の時と末子音の時とでは同じ文字でも発音が違うのだ(同じものも中にはあるが大半は違う)。本当はこの説明もしないといけないのだが、それはとりあえず後回し。

 さて、ここから末子音と声調の関係について説明する。

 ちょっと思い出してほしいのだが、「คา」というのは何と読むのか覚えているだろうか。

 そう。「カー」である。では、この「คา」の声調を覚えているだろうか。

 そう。第1声調という平らな発音で、記号だと「−」である。

 では「คาด」というのは何と読むのであろうか。「ด」は確かアルファベットでは「d」だった。でもそれは「頭子音」の場合である。

 この「คาด」というのはカタカナだと「カート」と読む。アルファベットでは「khaat」といったところだ。そう。「ด」は末子音の場合は「t」になってしまうのである。

 次にこの「คาด」の声調はどうなのであろう。「คา」が第1声調だから同じように「คาด」も第1声調である。と言いたいところなのだが、実は違うのだ。この「คาด」の声調は第3声調、つまり上がって下がる発音なのである。記号だと「∧」である。

 別の単語を見てみよう。

 คาบ

 これは何と読むか分かるだろうか。「カーなんとか」だということはお分かりかと思う。「บ」は頭子音では、つまり単語の最初に来る場合の発音は「b」なのだが、これが末子音、つまり単語の最後に来る場合は「p」になる。

 ということで「คาบ」は「カープ(khaap)」と読む。

 では、この「คาบ」の声調は分かるだろうか。

 実はこの「คาบ」の声調も「คาด」と同じく第3声調(∧)なのである。

 さてもうひとつ。

 คาง

 これは何と読むか分かるだろうか。「ง」は頭子音では「ng」という発音になり、日本語にはない発音なのでなかなか説明しにくいのだが、ぼくのイメージでは、サザエさんの来週の予告の最後にサザエさんが豆かなんかを放り投げて食べた後に「グゥワググ」とか何とか変な声を出すが、あの最初の「グゥ」みたいな音である。

 さて説明が長くなったが、この「ง」は実は頭子音の時も末子音の時も発音が変わらない。ただ、末子音に来た場合は日本人には「ン」と聞こえるので、この「คาง」の場合は「カーン」と表記する。

 では問題です。この「คาง」の声調は何でしょう。

 第3声調(∧)だと思うでしょう。ところが違うのである。この「คาง」は第1声調(−)なのである。

 この辺がタイ語の発音のややこしいところだ。

 でもとりあえずまとめ。

 ①คา  →第1声調
 ②คาด →第3声調
 ③คาบ →第3声調
 ④คาง →第1声調

 どういうパターンになっているのか考えてみよう。

 まず、前回の日記に書いたように、低子音(ค)+母音で声調記号なし、つまり①のような場合は「第1声調」だった。

 ところがこの「คา(低子音+母音で声調記号なし)」に末子音の「ด」がつくと第3声調になる。そして、同じように末子音の「บ」がつくと第3声調になる。ここまではいい。

 ところがところが、同じ末子音でも「ง」だと第3声調ではなくて第1声調のままである。

 これが本日乗り越えるべき壁。

 実はこの「ด」とか「บ」で終わる単語のことをタイ語の辞書なんかには「促音節」とか書いてあるんだけど、ぼくが6年半ほど前に独学でタイ語の読み書きを勉強していた時にはこの「促音節」という言葉の意味が分からなかった。でも、タイ語の単語を一語一語分析していくうちに最終的には何となく分かるようになった。ぼくの思うに独学が難しいのはこういうところだと思う。

 さて、この促音節っていうのが実は発音のパターンのカギで、タイ語辞書的に言うと「低子音で促音節の場合は第3声調になる」のである。ところがこれでは日本語ではあってもよく意味が分からない。

 もう一度振り返ると、「คา」のように低子音+母音で声調記号がない場合は「第1声調」なのだけど、それに「ด」や「บ」のような末子音が最後につくと「第3声調」になる。でも「ง」が末子音の場合は第1声調のままである。ここがポイント。

 実は、同じ末子音でも「最後の音が急に止まるもの」の場合は第3声調になるのである。でもこれじゃあまだよく分からないと思う。

 上の「คาด」と「คาบ」はカタカナでそれぞれ「カート」、「カープ」と表記したけど、普通の日本人がこの2語を聞くと両方とも「カーッ」みたいに聞こえる。この「ッ」みたいに最後が急に止まるように聞こえる音の場合は第3声調になるのである。ちなみにアルファベットだと末子音の「ด」は「t」で「บ」は「p」なのだが、このように末子音の音が「t」と「p」になる場合、それからもうひとつ「k」になる場合は第3声調になる。逆に「ng」とか「m」とか「n」の音で終わる場合はすべて「ン」のように聞こえるのだが、こういう末子音の場合は第1声調のままである。

 さあこれでやっと低子音の発音のルールが分かった。と言いたいところだが、実に残念なことにまだもうひとつ説明しないといけないことがある。がそれはまた今度(もう疲れた)。